変革と改革について

ビジネスの文脈では「変革」「改革」のどちらも使われますが、昨今は「変革」の方が多用されている印象があります。デジタル変革、グリーン変革、そしてサスタナビリティ変革と「変革祭り」であります。ただ、残念ながら「変革、変革」と言っている割に一向に「変革」が進んでいないのも事実のようです。変革が進まない理由は様々ありますが、この2つの言葉を混同してしまっているからではないか、という視点で考えてみたいと思います。

まずは言葉の定義から確認していきたいと思います。

英語で言えば変革はtransformation、改革はreformationです。
Transformationのtrans- という接頭辞は「〜を超えて」「〜を変えて」などの意味を付加します。「形」を意味するformと合わさることで、「形を変える」ことを意味します。どれほど形を変えるかといえば「完全に形を変える」くらいの意味合いです。

一方、reformationのre-という接頭辞は「再」を意味しますので「形」と合わさり、「再構築する」とか「改革する」を意味します。reformはニュアンスとしては「(外見、骨組みはそのままに)中身の入れ替えをする」イメージで、まさに家のリフォームを想像頂くのが理解しやすいです。

さて、この2つの言葉、無形のものに適用するときの区別が難しいです。例えば企業の形、ビジネスモデルの形ですが、これをどう変えたいのかによって「変革」も「改革」も適用可能です。変革、改革いずれを行うにしてもゴールイメージをはっきりと描き、それを共有することが大事だと思います。

ちなみに全体ゴールイメージが共有されないまま、部分的なゴールを設定し、変更を繰り返しているだけというケースもよく見ます。これは現場主体の改善活動であり、効率改善に寄与はしますが、改革ではありません。

企業レベルで変革をするとなると経営者の本気度が問われます。それは理念から変革の一手まで首尾一貫して実行され、結果を元に、やり方の変更の有無の判断までを全体を見回して指揮しなければならないからです。また全く新しい姿形になるというのは腰を据えて長期的な視点で行わなければなりません。この時に大事なのは理念、ビジョンに沿った長期ストーリー(不朽の名作)を作ることと、状況に応じてストーリーの編集・改訂ができること、そして安定した業務サイクルを回せることではないかと考えます。

私が変革の例え話としてよく引き合いに出すのが蝶の話です。

不朽の名作「蝶の一生」の目次は、卵→幼虫→蛹→成虫→交尾→産卵→死という章立てです。個体ごとに微妙に章の中のディテールは変わりますが、ほぼ同じストーリーとなります。順序が逆ですが理念についても触れておくと「種の繁栄」ということになりましょう。

さて、蝶は幼虫時代はイモムシですが、蛹を経て、羽の生えた全く別の姿に変わります。このように蛹を経て成虫になる様を完全変態と言います。蝶を一個体として考える時、業務サイクルというのは、幼虫時代は「食べて、這って、出して、脱皮して」です。業務目的は大きくなる事。そして成虫時代は「吸って、飛んで、出して」です。業務目的は良いお相手を見つける事。

この2つの時代で姿形と生きる目的、動き方が全く変わるのがお分かり頂けると思います。

さてtransformを語る上で、肝心の蛹時代を飛ばしてしまいましたが、少しクローズアップして見ていきたいと思います。蛹になる終齢幼虫は、脱皮を2回行い、幼虫時代の表皮を殻に変えていきます。殻の中では体を一旦、溶解し、再結合し、成虫の構造を作り上げています。

著書『バカの壁』が有名な医学者で解剖学者の養老孟司氏は昆虫採集が趣味です。彼は完全変態する昆虫の幼虫と成虫を別の虫として認識しているようです。成虫は幼虫に寄生している別の虫と考えているようです。蛹の中で起きている事は、寄生虫が幼虫の栄養を飲み干し、その寄生虫の成体に成長していると理解出来なくもないのです。

もちろん、これは養老孟司氏のユーモアなのですが、一個体の一生の中で、2つの生物の生き方があらかじめプログラミングされているというのは面白い視点だと思いました。蛹はこの2つの生物を繋ぐ状態であり、ある日突然、幼虫から成虫になるのではなく、流れるようにじわじわと変わっていくように繋がれているのです。

この蛹の有無がtransformとreformを分つものであり、transformationの成否を分つものだと理解しています。蛹の中で起きている変化から「変革」に必要な施策を立案するのは一考の価値があります。詰まるところ、「変革」の本質とは、transformした時に蝶の幼虫と成虫のような劇的な変化が起きたかどうか、ということなのです。また変革前の幼虫は幼虫なりの生き方をしていて、変革以前も立派に一個体として業務サイクルを回せていることも合わせて理解することが大事なのです。

どうも「変革」、「改革」がゴチャゴチャになるのは、一個体としての業務サイクルを回せなくなってから「変革」と言ってしまうからなのではないかと思えるのです。本来は一気通貫に連携されるべき、理念、ビジョン、戦略、業務がチグハグになっていて、幼虫が幼虫の体をなしていないにも関わらず、成虫をめざそうというのは少々無理があるということです。

まずは幼虫として成立できるように立て直しを図ることをお勧めしたいです。そのために理念、ビジョン、戦略のアラインメントを取り、そのストーリーに沿った施策、実行計画が立てられているかを見ることが重要です。その上で計画を実行し、その動きがストーリーに沿っているか、つまり、一個体になりきれているかを問うことが重要です。昆虫の場合は卵に戻ってやり直すことになりますが、企業の場合も原点回帰することから始めることになると思います。

私の定義では一個体になる前の施策は改革(卵以前)、一個体の成熟期に必要となるのが変革(蛹の中)ということになります。あなたが今取り組んでいる変化のための施策は「変革」ですか?それとも「改革」ですか?

ゴールイメージをはっきり持つことでどっちの言葉を使えば良いか見えてくる筈です。

え?どっちでもいいって?

それはきっと未来の持続的な成長ステージに到達したご自身の姿が見えたからでしょう。その次元から見れば、どっちでもいいし、どっちもいい話です。視点移動が出来ましたら幸いです。

それでは。

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この記事を書いた人

シゲタ ノリスケ シゲタ ノリスケ ビジネスデベロッパー、コンサルタント、オモシロタノシスト

好奇心が服を着て歩いてると言われる40代ビジネスパーソンです。オモシロタノシズムの社会実装を夢見て、今日もあれこれ考えています。

コメント

コメント一覧 (2件)

  • 幼虫から蛹へ移行する前に、
    10m以上移動する個体もいます。

    生まれ育った環境、
    いわば、
    晴れ親しんだ安全な場所を離れるんですね。
    蝶として飛び立ちやすい場所へ移動するんです。

    移動中や蛹の段階で、
    鳥に狙われたり、
    格好の場所が見つからず、
    袋小路の先で、
    そのまま果てる危険があるにも関わらずです。

    中には越冬する個体もいます。

    飛び立つ時と場所を知っているんですね。

    蛹って、
    じっと耐えている
    「守り」のイメージがありますが、
    実は結構「攻めている」。

    と、
    このコラムを読んで思いました。

    • コメントありがとうございます。

      蛹が守りつつ攻めているという視点に共感します。

      オオカバマダラというオレンジ色の綺麗な羽を持つ蝶の仲間がいます。この蝶は幼虫時代の餌となる植物の毒素を取り込み猛毒を持ちます。

      この守っているのか攻めているのか分からない状態が「生きている」ということなのではないかと思います。

      死んでしまえば守ることも攻めることもなく、環境に溶けゆくだけの存在になります。それもまた自然の摂理で抗うことは出来ません。

      変革というのも生きていく上での自然の摂理なのだと思います。成せなければ生きていくことが出来ません。しかし、生態系全体としては屍も意味のある存在です。

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