Creative Nationについて

”Be creative”という言葉が有ります。

直訳すると創造的でありなさいとか、独創的でありなさいという意味になります。実際に用いられる文脈によってニュアンスが変わりますが、アメリカで職場の上司が部下の仕事の出来を見て、この言葉を添えた時に意味することは「言われたことだけをやっていてはいけない」ということです。アメリカの話だから関係ないとも言い切れませんし、せっかくなので、この気付きを日本でより良く働けるために活かせないか、考えてみたいと思います。

その場面だけ切り取ると「言われた通りにやったのにそんなご無体な」と思ってしまうかもしれませんが、ここから考えさせられるのは「指示通りに行動することが善」という考え方に問題がないかということです。もちろん、指示を無視することは規律を乱すことになるので組織で仕事をする以上、問題行動だと認められると思います。ここで考えたいのは上司の指示が必ずしも、組織の目的を達成する最良の策になっていない可能性があるということです。つまり、あくまでガイドライン、ベースラインが提示されただけで、組織の目的を達成するために部下が付加価値を加えることは制限されていないということです。

こう考えると指示通りに行動することは、最低限のリクエストに答え続けることにならないでしょうか。仮に職場の全員がこのような行動を取っているとすれば、その組織の伸び代は上司の創造性の上限が限界線となるのではないかと思います。仮にその上司がとても優秀で創造力が豊かであれば、組織のパフォーマンスは高いレベルを保たれるかもしれませんが、その上司が変われば、組織のパフォーマンスも変わり、新しい上司によって行動を改めさせられることになるでしょう。

この働き方には大きな問題があります。それが何かを考える際に上司が状況変化をどこまで理解できているかを考えてみたいと思います。上司が一方的に与えた指示の前提は上司の視点からの状況理解を元に考えられたものです。よくコミュニケーションが取れている組織においては極めて高解像度で上司が現場を把握されており、的確な指示が与えられる可能性があります。それでも状況変化のダイナミズムに追随する中で認識の齟齬が生まれるリスクはあります。

自動車を公道で走る状況を想像してみてください。対向車、信号、歩行者、動物・・・刻々と状況変化があります。あなたは運転席でイヤホンをつけていて、中央司令室にいる上司からの指示通りにハンドルとアクセル、ブレーキの操作をしています。これまで事故をしたことがありません。ですが、これからも事故が起きない保証はなさそうです。少々極端ではありますが、実は「上司の指示に忠実に従う」というのはこれに似た行動なのです。

それではどうすれば良いのか。先ほどの自動車の運転の例を使えば、交通ルールを理解して、ゴール地点、到着時間を決めておけば、イヤホンを装着して指示を逐一受ける必要はなさそうです。

さて、ここからが応用問題、”Be creative”の領域です。先ほどの必要最低限の交通ルール、ゴール地点、到着時間以外に考えておきたいことは何があるでしょうか?例えば、ルートの工夫ですね。到着時間の制約の中でゴール地点までに経由地を幾つ設定できるか。あるいは指示されたゴールの先を考えた時、ガソリンの補給を済ませておくべきか?これらは言われていないことですから、考えようによっては無駄とも言えるわけです。ただ、上司が成し遂げたいことを理解しておけば、言われなかったことも確認しながら進めることができるでしょう。例えば、本当のゴールが地点Bであることを理解している場合、「地点Aに到着後、地点Bをめざすことになると思いますが、目標日時までには余裕があると思われるので、一旦地点Aで休息を取り向かうことで良いでしょうか?」といった具合に先回りして、上司が指示を出す前にアクションの確認ができたりするでしょう。これを続けていくことでコミュニケーションの効率は向上し、組織のパフォーマンスも向上していくでしょう。

“Be creative”が奨励されるのは、このように創造性により付加価値が加えられ、創造性を尊重するカルチャーが企業価値の極大化に繋がるという考え方が仕組まれているからではないかと思います。また個人側にも、拘束時間の中で独創性を活かした経験を積み重ねることが個人の付加価値を高めることに繋がり、労働力としての市場価値を極大化させることに繋がるという考え方が仕組まれているからではないかと思います。このように組織、個人が”Be creative”に牽引されて相互に成長していくイメージが湧いてきます。そして、これが社会全体のメカニズムに組み込まれていると社会全体の成長に繋がっていくと考えることはできないでしょうか。

とはいえ、実際にはこのように綺麗に噛み合っているケースばかりではないと思います。コミュニケーションがずれるとゴール地点もずれるし、場合によってはルール違反も起きると思います。コミュニケーションのずれはどちらか一方の問題か、双方の問題ですが、人財流動性という自浄作用が効く社会では、個人としては嫌なら辞めて他に行く、組織としてはマネジャーを解雇するという選択肢があるので、creativeではない居心地の悪い環境が延々と存続しにくいのです。

翻って日本社会を見ますと、社会と組織、個人のそれぞれで課題が浮かび上がってきます。

個人レベルの課題は何でしょうか。まずは組織の中の個人の話をさせて頂きます。先の譬え話を引用すると「イヤホンをつけて誰かの指示だけに従っている」という問題に対して、「イヤホンを外して自分の判断で行動できるようになるためにどうするか」という課題設定を考えてみましょう。”Be creative”の領域に至るために上司の考えを理解する、指示されたゴール地点Aではなく真の目的地が地点Bであると理解するということでした。これは組織の目標、会社の目標を理解するということであり、その背景にあるストーリー、すなわち戦略を理解するということです。そのストーリーのキャストとして何が求められているかを考え、自ら行動できるようになれば、上司の具体的な指示を逐一受ける必要はなくなるでしょう。

次に組織レベルの課題は何でしょうか。先の譬え話を引用すると「ゴール地点」と「到着時間」の設定、ドライバーとの合意、そしてゴール到着までのコミュニケーションということになると思います。ゴール設定に関しては、長期的に到達しようと考えているゴール地点Fの提示、そして中期的にめざすゴール地点D、現在地の地点Aと地点Dの間にある想定ルートと途中で実施するアクションを勘案して無理のない到着時間になっているかという移動計画とセットで検討されなければなりません。このゴールに至るストーリーがドライバーに共感されるものになっているかが重要です。できればワクワクするようなストーリー作りをして、creativeなドライバーを引き寄せたいものです。ハプニングは付き物なので必要に応じてストーリーの変更を加えながら目標地点に到達するようにドライバーと対話していくことも重要です。

さらに社会レベルの課題ですが、これは先にも書きましたように長い年月を掛けて創っていくしかないと思います。ワクワクするストーリーが増え、creativeドライバーの数が増えていく必要があります。そんなcreativeな企業をサポートするファン、社会の仕組みの整備が進められると動きを加速することができると考えられます。そのために社会レベルで”Be creative”という考え方を埋め込む必要があります。

先の個人レベルの課題では組織の中の個人を想定して書きましたが、個人が社会に対して直接的にインパクトを与える時代に入りましたが、今後はこのような強い個人が増えていくものと考えます。従来型のヒエラルキー構造の大きな組織がなくとも、自律分散型の組織形態でも大きな仕事ができるようになろうとしています。個人の声がインターネットという拡声器を介して社会にメッセージを伝わったり、網目で繋がれた人々の意見がオセロゲームのように反転したりする性質を踏まえて、”Be creative”を着実に埋め込んでいくcreativityが求められています。

この社会にはまだまだ伸び代があります。

社会とは何か。人民、国民、市民の違いとは。世界は国家の枠組みを超えて繋がり、市民社会が広がっているわけです。社会主義国家では国家が人民を指導し、現代国家では市民社会が国家を構成する。国家と民の関係もところ変われば概念が変わります。日本は現代国家を名乗っていますが、その実は社会主義的ではなかろうか。市民なのか人民なのか、その自覚から始めても良いと思います。草の根からCreative Societyを創り、Creative Nationを運営していきましょう。

面白いと思ったらシェアお願いします!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

シゲタ ノリスケ シゲタ ノリスケ ビジネスデベロッパー、コンサルタント、オモシロタノシスト

好奇心が服を着て歩いてると言われる40代ビジネスパーソンです。オモシロタノシズムの社会実装を夢見て、今日もあれこれ考えています。

コメント

コメント一覧 (2件)

  • creativeな人が増えていけば、自ずとcreativeな社会になっていきますね。
    その前に、ノリスケさんがおっしゃるように、「自分はcreativeに生きていく。」=オモシロタノシズム
    という目標や自覚、宣言が必要ですわね。
    タダは、市民でも人民でも国民でもなく、世界のタダでありたいわ。

    • タミではなくタダ。生まれながらにして世界のタダです。
      creativeな社会をめざしていきましょう。

コメントする

目次